帝王の言葉 第4話 飛距離が通用しないコースは、何を試しているのか

前回は、全米オープンの歴代優勝者を振り返り、2016年以降、飛距離のある選手が優勝者の中心になっていることを考えました。

では、本当に現代のゴルフでは、飛距離がなければ勝てないのでしょうか。

私は、そうではないと思います。

同じ選手が、同じクラブと同じボールを使っていても、開催コースが変われば、飛距離の価値は大きく変わるからです。

その代表が、ハーバータウン・ゴルフリンクスです。

ハーバータウンは、PGAツアーの中では決して長いコースではありません。

フェアウェイも広大ではなく、木の枝がショットの通り道を限定し、小さなグリーンへ入れる角度が重視されます。

ここでは、ティーショットを遠くへ飛ばせば、それだけで有利になるわけではありません。

フェアウェイに置いたとしても、左右を間違えれば、次のショットを木が遮ります。

グリーンが見えていても、進入角度が悪ければ、ピンの近くへボールを止めることができません。

つまり、ハーバータウンにおけるティーショットのターゲットは、単なるフェアウェイではありません。

次のショットを打つための、フェアウェイ内の特定の場所です。

飛距離がある選手でも、必要以上に前へ出せば、木の枝や悪い角度によって次打を難しくします。

反対に、飛距離が平均的でも、正しい側へ置くことができれば、グリーンの奥行きを使ってボールを止めることができます。

ここでは、

「どれだけ前へ行ったか」

よりも、

「次のショットをどこから打てるか」

の方が重要になります。

オリンピッククラブのレイクコースも、同じことを教えてくれます。

このコースで行われた全米オープンでは、必ずしもロングヒッターばかりが優勝してきたわけではありません。

ビリー・キャスパー。
スコット・シンプソン。
リー・ジャンゼン。
ウェブ・シンプソン。

いずれも、圧倒的な飛距離だけで試合を支配した選手ではありません。

オリンピッククラブのレイクコースは、サンフランシスコ南西部、太平洋岸に近いレイク・マーセッドを見下ろす丘陵地に造られています。

各ホールは起伏のある斜面を横切るように配置され、フェアウェイも地形に沿って左右へ傾いています。

さらに、フェアウェイを囲む大きな木々がショットのルートを限定し、ボールを通さなければならない狭い空間を作ります。

全米オープンでは、フェアウェイやグリーンがコンクリートのように硬く仕上げられることがあります。

小さなグリーンに直接ボールを落としても止まらず、グリーンのはるか手前へ着弾させ、地面を転がして止めなければならないホールもあります。

そのため、単に残り距離を短くするだけでは、ピンを狙うことができません。

どこから打つのか。

どの方向へ打ち出すのか。

どこへ着弾させ、どれだけ転がすのか。

そのすべてを逆算する必要があります。

ティーショットを曲げれば、単にラフへ入るだけではありません。

次のターゲットへ向かう射線そのものを失います。

深いラフなら、パワーのある選手が短いクラブで振り抜くことができるかもしれません。

しかし、木によって打つ方向を失えば、筋力では解決できません。

また、木がなくても、グリーンへボールを止めるために必要な着弾スペースを使えなければ、同じようにピンを狙うことができなくなります。

ここに、ターゲットゴルフの本質があります。

単にフェアウェイを狭くし、ラフを深くすればよいわけではありません。

正しい場所と、間違った場所の差を作ることが重要です。

フェアウェイの右側からなら、グリーンの奥行きを使える。

左側からは、バンカー越えになる。

少し距離を抑えれば、平らなライが残る。

飛ばしすぎれば、下り傾斜から打たなければならない。

このような構造があれば、選手は毎回ドライバーを最大出力で振ることができません。

飛距離を使うのか。

位置を優先するのか。

次のショットを、どの角度から打つのか。

それを考えること自体が競技になります。

狭いコースは、しばしば質が低いコースのように扱われます。

「ドライバーを振れない」

「プロには短すぎる」

「現代のツアーには向かない」

そのように評価されることもあります。

しかし、これはコースの質を見ているのではありません。

飛距離を発揮しやすいかどうかだけで、コースを評価しているのです。

本来、狭いコースほど設計の質が問われます。

ただ狭いだけなら、窮屈なコースです。

しかし、

どこへ打つべきかが明確である。

飛ばすルートと安全なルートが用意されている。

正しい位置からは次打が打ちやすい。

間違った位置からは、ピンへ止めにくい。

こうした意味があるなら、狭さは選手の技術と判断を測るための装置になります。

ハーバータウンやオリンピッククラブで、飛距離だけの選手が上位を独占しないのは、飛距離を不当に罰しているからではありません。

飛距離が、正しい場所へ運ばれたときにだけ価値を持つように設計されているからです。

ロングヒッターが勝てないわけではありません。

飛距離があり、なおかつ正しい位置へ運び、そこからボールを止められる選手なら勝つことができます。

今年のハーバータウンでも、十分な飛距離を持つスコッティ・シェフラーがプレーオフまで進みました。

しかし優勝したのは、ハーバータウンを過去にも制しているマット・フィッツパトリックでした。

これは、飛距離のある選手が排除されるという意味ではありません。

飛距離だけでは勝てず、位置、角度、距離管理、ボールコントロールまで揃えた選手が評価されるということです。

つまり、飛距離は絶対的な正解ではなく、総合技術の一つに戻されます。

ここから分かることがあります。

現代の飛距離問題は、クラブやボールだけの問題ではありません。

同じ用具を使っていても、コースが明確なターゲットを示せば、飛距離の支配力は小さくなります。

反対に、広いフェアウェイと柔らかいグリーンを用意し、飛ばした先から短いクラブで止められるようにすれば、飛距離は絶対的な価値になります。

選手が変わったのではありません。

コースが、何を良いショットとして評価するかが変わったのです。

ハーバータウンやオリンピッククラブが示しているのは、飛距離のある選手を排除する方法ではありません。

遠くへ飛ばす能力を、方向性、位置、角度、距離管理と同じ土俵へ戻す方法です。

ゴルフは、遠くへ飛ばした者が勝つ競技ではありません。

必要な距離を、必要な方向へ運び、次のボールを止める条件を作った者が勝つ競技です。

ニクラスは、すでに約7500ヤードまで延長されたミュアフィールド・ビレッジを、これ以上長くするには、周辺の道路まで買収しなければならないと語っています。

これは、単なる冗談ではないでしょう。

選手の飛距離が伸びるたびにコースを延長する方法には、物理的な限界があります。

だからこそ、次に考えなければならないのは、コースをどこまで長くするかではありません。

飛距離が、どのような条件で利益になり、どのような条件では不利益になるのか。

次回は、飛距離を無条件の利益にしないコース設定について考えます。

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